2005年5月16日(月)
no.24 バカなおとなにならない脳 養老 猛司 著
バカなおとなに
ならない脳


養老 猛司著

理論社 
1200円+税
 
2005年発行
上記画像は
アマゾンへのリンクです。

♪ダイヤル、ダイヤル、ダイヤル、ダイヤル、ま・わ・し・て♪

 これでぴんと来た人はかなりのラジオ好きだと思う。これはTBSラジオで放送されている「全国子ども電話相談室」のテーマ音楽の一部である。私はこの番組が好きである。子どもの質問、これは結構えげつないものが多い。それに対し、回答者である名のある大人が如何に答えるか?そのやりとりが面白いのである。

「アリは歩いているんですか?走っているんですか?」

これは2000年に放送されたこども電話の難問珍問集の中にあった質問である。
さて貴方がこの質問をぶつけられたら、どう答えるだろうか?

 今日紹介する本は、この放送に似ている所がある。「バカの壁」などを書いた養老先生が、子どもたちの質問に答えていくのである。

バカって治るんですか?
心って何処にあるんですか?
解剖は気持ち悪くないんですか?
(著者は解剖学者)

大人ではあれこれ考えてしまい中々聞くことが出来ないものばかりである。
著者の考えというのも特徴的なのだが、私がこの本を書店で手に取り買うに至ったには次の質問のやりとりを読んで面白い!と思ったからである。

(Q)好きな人に教室で話したり、ひどい時はただすれ違ったりするだけで顔が赤くなったり、緊張したり、どもり声になってしまい、そんな自分がとっても嫌でどうやって冷静な普通の自分に戻せるか、と悩んでいます。(略)
(A)いいんですこれで。キミへ変でもなんでもないです。きわめて正常です。冷静に戻る必要なんてありません。気にするから、よくない。ほっときなさい。そのうちなれます。


ほっときなさい(笑)確かにその通りである。でもそれをいってしまう所、それが面白いと思ったのである。子ども電話と似ている、としたのはこの点があったからである。同じではないのである。子どもからも質問に答える点、それは同じである。でもこの本では分からない事には「分からない」、どうしようもない事には「どうしようもない」と答えてしまうのである。
筆者も本の中でいう。

若い人は質問自体について考えていない事が多いのでは?
はじめから何もかもわかるはずだというのは、前提自体がまちがいなんです。人間が何でも出来ると思ったら大まちがいなんです。


これが本の中で貫かれている。

 私が最初に筆者の本を読んだ時に浮かんだキーワードは「結界」だった。生と死。正と悪。利口とバカ。…これが極端に別れている、という事を改めて感じた。それに対し筆者はその結界はもっとあやふやのものである。世の中そんなに甘くない。といっているような気がしたのである。

この本もやはりそれを感じた。
この問答はかつてはどこの町にもいた世話役のじいさんがあたかも答えているようで軽快である。それでいて、子どもたちにも分かるよう脳の事を説明していっている。

 例えば脳地図。これは何年か前大学で習ったが、どうも分かりにくかった。○○分野がどうした、こうした…。それもこの本では入力部と出力部という風に分け説明をしていっていくれる。更に言えば最近「ミラーニューロン」という相手の反応に即反応する部分が脳にある事が分かって、それはどういうものと考えられているか?なんていう事も説明されている。

 つまり読んでいくと分かるのだが、筆者は分かることを総動員して、それでいて「分からないこともある」と認めた上で、真剣勝負で子どもの質問に対峙していっているのである。
確かに児童書だが、それ故に出来た好著だと思う。
このシリーズ自体も、今後注目していきたいと思っている。

(↓反転させてみてください。アリの質問のその時の回答をおまけでつけました。)
アリは歩いているか、走っているか…。この質問に対して回答者であった無着成恭さんは以下のように答えている。
歩いている時、それは必ずどちらかの足がついている状態をいいます。走っている時はそうではありません。(注 競歩でもそういう定義がある)ではアリはどうでしょうか?(ここで質問した子に聞いて)アリは4本足がありますね。という事は必ずどれかの足は地面についているわけです。という事は…アリは歩いているのです。
「うまい!」と思う回答である。すくなくともなるほどと思う。貴方ならどう答えますか?
面白い回答浮かんだら是非掲示板へ!
今日のあれこれ
 実測と地図の読み取り

今日、大学で博物館の実習を行った。どうも月曜というのは博物館の休館日の為、何処の大学でも博物館関係の授業が多いと聞く。今日は実測だった。どんな図を描くかは下のオススメリンクを参考にして欲しい。実測では必要と思われる様々な情報を対象から読み取り記録していく。寸法は勿論の事、模様、傷、しみ…。一つのお碗ならお椀を細かく見て、細部の特徴を捉え、そこから全体のお椀についての情報を集め、そのお椀のデータをより確かにしていくのである。

地図を最近見ることがある。見ていくと様々なことが分かる。河川の跡、宿場の跡…それは必ずしも歩いた時に、建物であったり、岸であったりとして残っているとは限らない。埼玉にもいくつか分かりやすい例がある。一つあげてみよう。
まずはこれを見て欲しい。全体画像でいうと左上の部分に赤いタグがある。そこから目線を右にずらしていく。そうするとグラウンドのある施設が見える。そしてそこから目線を上にあげると…。川の跡が見えるのである。(もし見えないで悔しい!という人はメールください)

例えばこの川の跡のカーブを歩いたとしても中々ただ歩いているだけでは気付かない。しかしそれをこのように鳥のように見てみると一つのものが見えてくるのである。鳥のように見たとき、これをお椀としたら歩いている時に得られる情報はしみ、傷のようなものであるともいえる。そこから如何にしてお椀の情報、鳥のように見るときの情報を得て、その情報を確かにしていくか、そういう面でこの二つはつながると思うのである。

さらに言えば、おわんのしみ、傷にも全体像を細くする意味があるし、私達が日ごろ何気なく歩いている道の曲がり方、傾斜、何気なく目に入る集落、森林にも何らかの意味があるのである。

そんなのを読み取っていくのが実測であり、地図を見ることでもある。
それを思いつつ、散歩をする、これも楽しいなあと思いつつ。
心地よい風、新緑、散歩には格好の時期。パソコン・携帯の電源切って、いつもの町、少しノンビリ歩いてみませんか?
本日のお勧めリンク
http://www.minpaku.ac.jp/staff/kondo/wp02.html 
(国立民族学博物館 内民族学者の仕事場より実測図についての記述)
http://mapbrowse.gsi.go.jp/airphoto/index.html (国土地理院空中写真閲覧サービス ここの空中写真を使いました)
http://www.tbs.co.jp/kodomotel/ (TBSラジオ全国こども電話相談室HP 過去の質問と回答集があります)
http://www.rironsha.co.jp/special/series/index.html 
(理論社YA新書「よりみちパン!セ」特集HP 今日紹介した本のシリーズです) 

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