2005年8月24日(水) |
no.47 わすれられない おくりもの スーザン・バーレイ さく・え 小川仁央 やく |
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わすれられない
おくりもの
スーザン・バーレイ さく・え
小川仁央 やく
評論社
1050円
1986年
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上記画像は
アマゾンへのリンクです。
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法に則り、比喩を使い、因縁を語るべし
今日は絵本の紹介である。この絵、以前CMで…という方もおられるのではないだろうか?私の場合はこの絵を見るとこのCMが流れていた某局の天気予報の事を思い出してしまう…というように印象的な絵である。(その絵がはっきり見えるように今回は本の画像を大きくしました)
そのCMで主役を張っていたのがこの表紙で一番大きく書かれているアナグマである。本作ではそのアナグマの死、それがテーマになっている。アナグマの死。そのともだちは彼の死をどう受け止めていくか?絵本ではあるが、そのテーマは死をテーマにした非常に考えさせられる一冊である。
アナグマは死を恐れてはいない。それは「死んで、からだがなくなっても、心は残ることを、知っていたから」だという。そして題の「わすれられないおくりもの」。この二つをキーにしてこの物語は進んでいく。
私事になるがここ2.3年、相次いで近しい人を突然亡くした。そんな時は正に心にぽっかり穴が空いたような感じになる。その人のいなくなった事を受け入れるまで、たとえ彼らの亡骸を見たとしても中々時間がかかるのである。そして悲しんだけど、事実が把握できず、泣ききる事も出来ない。と思えば、何でも無い時に知らずに涙が出てくる。
「死」について敏感になり始めるのである。そんな時にこの本は、体が弱った時に食べるような滋養効果満点のお粥のように効いてくると思うのである。食べやすいが元気になるのに役に立つ。そんな感じである。
「死」。永遠の人間のテーマであろう。とても難しい問題である。難しい問題を過去の先人が用いてきた概念(専門用語・思想)などを用い説明する事は、それは難しいが積み重ねていけば何とかできるものだと思うのである。
しかし、それを子どもにも分かる平易な言葉で表すとすれば、そこにごまかしも効かず、また前提となる知識も無く、それは非常に難しい事である。前者よりも更に更に難しい事である。嘗て泉鏡花や芥川龍之介が児童文学を書き、また海外ではトルストイ等も児童文学を書いた。著名な作家であるといえる、彼らをして取り組ませるほどの課題、それが「子どもでも分かる平易な文章で書く作品」つまり児童文学なのではないだろうか?
そういう意味で注目していかなければならないジャンルだと思い、今回取り上げ始めた訳である。
さて話を少し変える。
「死」について今回、私が2度の別れの中で一番心に触れた文は次のものだった。
それ、人間の浮生なるすがたを、つらつら観ずるにおおよそはかなきものは、この世の始中終まぼろしのごとくなる一期なり。
さればいまだ万歳の人身をうけたりという事をきかず。いまにいたってだれか百年の形体をたもつべきや。我や先、人やさき、今日ともしらず明日ともしらず、おくれさきだつ人は、もとのしずくすえの露よりもしげしといえり。
されば朝には紅顔あって夕べには白骨となれる身なり。すでに無常の風きたりぬれば、すなわちふたつのまなこたちまちにとじ、ひとつの息ながくたえぬれば、紅顔むなしく変じて、桃季のよそおいをうしないぬるときは、六親眷属あつまって、なげきかなしめども、更にその甲斐あるべからず。
さてしもあるべきことならねばとて、野外におくって夜半のけむりとなしはてぬれば、ただ白骨のみぞのこれり。あわれというも中々おろかなり。されば人間のはかなき事は、老少不定のさかいなれば、だれの人もはやく後生の一大事を心にかけて、阿弥陀仏をふかくたのみまいらせて、念仏もうすべきものなり。あなかしこあなかしこ。(御文章 白骨章)
真宗は蓮如の文である。これも児童文学とは趣は異なるが、平易な言葉で書いたものであるといえよう。これは仏教の中の文であるが仏教の中には次のような文がある、と永六輔氏が以前講演で話していた。ちなみに永氏の実家はお寺さんであり、半分は仏教関係の人である。
法に則り、比喩を使い、因縁を語るべし
これは恐らく仏法に則り、分かりやすい例を用いて、事の起こり、結末を話すように。という意味になるのだろうが、永氏の凄い所はこの言葉と井上ひさしさんのモットーを重ね説明するのである。
それは
「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く」
という言葉である。そしてこれがまた児童文学にも言えると思うのである。でもこれって物凄く難しい。当サイト一つのテーマであるコミュニケーションにも通じるところがある。だからそういうような書物を読んでいくと「すげえな!」と思わず唸ってしまうのである。
本書はそのような一冊である。
また、この本の凄い所、著者が絵も文も書いている所だろう。この絵のやさしさだけでも十分に得られるものがある。
近くの図書館に行けば、おそらく間違いなくある一冊であると思う。
最近、文字の多い本、難しい本、やもすれば絵に吹きだしのある本ばっかりを読んでいる貴方。どうでしょうか?たまには、もうすぐくる秋の夜長に久し振りに絵本と向かい合ってみては?
そして貴方の大事な人に読んであげてはどうでしょう?
人に読んであげることにより見えてくるものもある。そしてその人との間にも今までにはなかった間が生まれるのではないでしょうか?
そういうのも絵本の良さである、と私は思っている。今日この頃です。
追伸
アマゾンのブックレビュー。この本の紹介は読んでいても心に心地よい風が吹きます。今回はオススメ!こちらも是非ご一読を。 |
今日のあれこれ |
さて、新ジャンル。絵本を今日取り上げてみました。
何でいきなり?そして最後の文。ひょっとして新しいパートナーが…と思った貴方!!
鋭い!!
本当に!!!
よく分かりましたね!!!!
とうとう久し振りに幸せに……
大はずれです(笑)
そういう出会いは当分無縁な生活、精神状態の今日この頃です(笑)
ではなくて…今やっている司書教諭の講習で今、本の読み聞かせ(読書指導)のところをやっていて、そこでのテーマが児童文学なんです。
読んであげてみて!というのは親愛なる間で幸せの中読んだのではなく、100人以上いるでっかい教室の中で、幸運にも(笑)講師の方に指名され、絵本を読んだんです。今日…。
緊張はしましたが、面白い空間、間でした。
いろいろな事が見えてきた、勿論緊張もした時間でした。
さすがに100人以上の前で読む機会なんてのは滅多にない、というか、あって欲しくない事ですが(笑)そうではなくても貴方の大事な人と、絵本是非読んでみてください。
当サイトでもせっかく講義で絵本を扱っているのですから、使わせてもらって、もう数冊、絵本の紹介をしていきたいと思っています。
普段とは一味違った本の紹介。どうぞよろしければ、お楽しみ下さい。
プライベートは、目下、落下中。
欝な世界が口をあけて、おいで、おいでしている感じです。
そっから這い上がる為にも(笑)必然的にここの更新が増えると思いますので、そっちもどうぞご期待を(している人はいないと思いますが)
どっかに良い人いませんか〜〜〜
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本日のお勧めリンク |
http://www.j-sla.or.jp/(全国学校図書館協議会) |