2005年11月2日(水)
no.55 剣客商売 番外編 黒白(上・下) 池波正太郎 著
剣客商売 番外編 
黒白(上・下)

池波正太郎 著

新潮社
各705円+税
2003年
上記画像はアマゾンへの
リンクです。(画像自スキャン)

曖昧さ・白黒つけない灰色の生き方

 随分久々の本の紹介である。私生活では新たに「仕切り直し」ともいえる一ヶ月だった。そんな一ヶ月ぶりというこのサイト開設以来、一番長かったお休みの再開にどの一冊を紹介しようか?そう思い、最近読んだ本、そして今まで読んできた本を思い浮かべ、書棚に目を移した時、自然に手が伸びたのがこの本である。実は大学に入り、学びを深めていく中で最初に紹介したのもこの本だった。

 サイトの自己紹介で好きな作家なども書いているのだが、実は何故か好きな人ほど紹介するのが憚られて池波正太郎もかなりの作品を読んでいるのだが、ここでは初めての紹介である。

池波正太郎。言うまでもなく、時代小説の大御所である。「仕掛人藤枝梅安」、「真田太平記」、「鬼平犯科帳」、「剣客商売」…代表作を挙げてもこれだけのシリーズ作品が出てくる。更に短編もあれば、エッセイもある。特に食べ物のエッセーについては正しくその本自体も垂涎の品ともいうべき出来である。更に言えば自分が何度目かの浪人をした時、第二の故郷の大阪へ傷心旅行をした時、手にしていた本であり、今では思いでの一冊になっている「青空の街」も又氏の現代小説の傑作である。

そんな中今日、紹介するのがこの「黒白」(こくびゃく)である。


 題の通りこの作品は池波正太郎の代表作の一つ「剣客商売」の番外編にあたる作品である。剣客商売は剣客を生業として生きていく事、そこにある人間模様を描き出した名作である。主人公は敢えて当サイトでは秋山小兵衛、その子秋山大次郎という二人の剣客であるとしたい。(大雑把な紹介です。後々丁寧にこの作品も取り上げるつもりですのでご勘弁を)その番外編である。

この作品自体は正にこの本の題どおり「黒白」を扱った事つまり白黒つける事(二元化)について触れた作品だと私はとらえている。それを二人の剣士の生き様を通し表しているのである。一人の剣客(波切八郎)は剣一筋に行き、刺客に身をおとす。もう一人の剣客は剣客を商売と結びつけ生き抜いていく。(こっちが秋山小兵衛)その様を氏特有の軽快なそれでいて、深みのあるタッチで綴っていくのである。


白黒つける事、これを否定する、というのは単にこの作品に限らず、池波作品の根底を流れるものだと私は思う。それは人間の奥深さに基づく否定である。例えば別の代表作鬼平犯科帳の中には次のような台詞がある。

「人間という奴、遊びながら働く生き物さ。善事を行いつつ、知らぬうちに悪事をやってのける。悪事を働きつつ、知らず識らず善事をたのしむ。これが人間だわさ」(鬼平犯科帳2,91)

更にこの作品でもこのような台詞があるのである。

(秋山小兵衛が剣士を志した息子大次郎へ)「・・・人の生涯、いや剣客の生涯、とても剣によっての黒白のみによって定まるものではない。この広い世の中は赤の色や、緑の色や黄の色やさまざまな、数え切れない色合いによって成り立っているのじゃ」(黒白下巻、525)


白黒はっきりつける、それこそ一番の理論化である。人間って分からない者である。好きな相手を怒鳴りつけてみたり、更に嫌いな相手と一緒にいたり…理屈をこねるのが嫌い!といっている人が実は白黒はっきりつけていたり…。

だからこそ相手を見ていくのが必要なんじゃないかと思う。しかも多面的に。好きになった相手に色々な感情を持ちつつ、それでも「何か」自分でケリをつけるために動く、そんなのもありかなと思うのである。だからこそ話を聞きたいし、聞いて欲しいのである。
相手の事も分かりにくければ、自分の事だって早々分かるもんじゃないと思う。この本でもそういう台詞がある。

「さて、あのころのわしが、何故に変わったか・・・・・それは、よくわからぬなあ。人というものは他人のことならよくわかっても、おのれのことになると、さっぱりわからぬ生きものゆえな」(黒白下巻、532)

更に言えば今の僕が半年前、このサイトを始めた頃の紹介文を書けるか…と言えば、それも無理である。何かを残したいと思い、その一つの表れがこのサイトでもあるがそれは又自分が変わって行く事も表しているんだなあ、と最近思うようになっている。変えたくない自分はある。それは意識して止める事が出来るかもしれない。でもそれにしたって、どうしたって変わって行く自分、これもまた確かに存在するんだ、と思い始めた。

そんな事を考えていて、だからこの本を手に取ったのかもしれない。

氏の作品、作品中の料理の記述も絶品、食のエッセーだけでなくこのような小説の一こまも読んでいると涎のたれてくるものがあります。又それと同じくらい、人の味わいが感じられる作品でもあります。時代小説…ジジクサ〜イなんていわずに是非是非手にとって読んでみてください。

と言う所で久々の紹介を終わりにします。


最後まで読みきれる文章だったでしょうか?お教えいただきたく思っております。もし最後まで読めた、という方は一押し頂けると参考になります。更に何か一言!という方はその後にもう一押ししてメッセージを頂けると嬉しい限りです。


今日のあれこれ
この一ヶ月色々ありました。このページを立ち上げたのが四月の末。この一ヶ月の動きの助走期間としては余りにも長い期間、そして事態が動きつつある今、正しく無我夢中の自分がいます。「何とかしなければ…」。そんな時、このサイトを訪れてくださる方、そしてサイトを始めたことによりお付き合いさせていただく事になった方、きぬこさんやかなさん、もろりんさんにWestieさん更には兼平さん、そして本の投稿を下さっていた(今でも別のところでお付き合いがありますが)栗無存さん…そういう多くの方に支えられてきたサイト、それが自分の半年を表す一つの形となっている事に本当に感謝したいと思っています。

ありがとうございます。

でもって随分久し振りの紹介…。考えが浮かばない…こんな事は滅多にないのですが、自分の以前別の所でした本の紹介を元に書いてみました。やっぱり出来はイマイチでしたねえ…ぼちぼちエンジンかけていきますので何卒ご容赦を。

今後とも精進していきますので、何卒宜しくお願いいたします。
いもはた
本日のお勧めリンク
今日は池波作品を読むのにオススメのソフト!(以前紹介したかな?)
http://www.app-beya.com/kasane/index.html (江戸東京重ね地図)

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