タイムマシンに乗って
研修医呼び込め 県が合同説明会 病院選び手助け 新年度から
人口10万人当たり医師数 本県全国最少
人口10万人当たりの医師数が全国で最も少ないなど、県内でも医師の確保が問題化している事態を受けて、県は新年度から、全国の大学医学部を卒業した臨床研修医を県内病院に積極的に迎え入れるための「合同説明会」を開催する。さらに、医師不足が著しい「産科」「小児科」の研修を行う病院に対する補助金を支出することで、病院の研修環境改善を支援する。県は、新年度予算案に、関連経費3293万円を盛り込んだ。
…(中略)…
県内の人口10万人当たりの医師数は129人と、全国の都道府県中、47位と最も少ない。県内地区別では、児玉地区が82人、利根地区が92人と100人を割り込んでおり、地域によっては医師数不足がさらに深刻な問題となっている。
(2007年2月24日 読売新聞)
埼玉県の話である。
今日このように、医師が都市部に偏る傾向があると言われている。大上段で言えば、『地方から医師がいなくなる』状態になりつつある、と言えよう。
「でも、昔に比べれば…」
…という意見が出るかもしれない。
では、今の医療事情は昔に比べて、どうなのであろうか?今日紹介する本は、そんな所に光を当てる一冊である。
この本は、題のとおり、江戸時代の医療事情について、佐渡を事例に挙げ、述べていく本である。
医療事情を説明していくに当たり、文書(もんじょ)を用いて、湯治の事情を明らかにしていくのである。
そして、江戸時代の医療事情の特徴として、以下の事を明らかにするのである。
佐渡においては、医師数、薬を作る人の数を見る限り、今日により、医療事情は良かった。
そして、その医療は、地域の薬草を使い、また医師もこまめに往診を行っているなど生活に密着したものでああった。
また、修験などにより心の病に対する対応も行われると共に、科学的な見地も、わが国独自のものと、西洋の知識を合わせ、取り入れられていた。
…と、私たちが思う以上に、江戸時代の医療状況が良かった点を指摘していくのである。そして、江戸時代の医療の特徴が「予防」を重視したものであることを指摘し、今日の医療がそこから学ぶべき事があることを示唆しているのだ。
これは、同時に、明治維新、近代化を全肯定することへのアンチテーゼであるともいえる。
近代化、技術の発達ということがプラスに捉えられることは多いと言えよう。そして、その思い込みから、私たちはある「歴史像」を作りがちである。しかし史料を一つずつ見ていった時、その史料が指し示す事実は、その「歴史像」とは異なるものなのである。
史料(資料)。
これは古の時を示す、タイムマシンであると言える。そして、それを丹念に調べて行く事は、思い込みで、眼差しが向けられなかった、或いは大まかに捉える事で事実とは異なった理解をされた事柄、人に光を当てることであるとも言える。
勿論、その事実も、「より確からしい」物であるに過ぎない。しかし、やはり「より確からしい」事実に近づきえるのである。
そこには楽しさ、そして誤解を防ぐ、やさしさがあるのではないだろうか?特にこのやさしさは、ボランティアなどの即効性のやさしさに比べ、地味なものではある。しかし、物の見方として必要であると私は考えている。
そんなこんなで、史料によりタイムマシンに乗って、当時の状況を眺める事のできる一冊である。
唯一、言うとしたら『江戸の医療事情』という副題は若干のイイスギ(佐渡の事例が中心であるので)とも言えるが、これは新書ゆえの…事情かな。
勿論、他の見方も可能性としてはある。
ただ、史料による、当時の状況の検証としては、意義のあるものだと私は考える。
機会があったら是非。
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